石川県金沢市石引二丁目8-3
今日は、福光屋さんの“加賀鳶”シリーズのお酒から、純米酒と純米吟醸酒とを飲み比べしてみたいと思います。
福光屋さんは、2001(平成13)年に製造するお酒を全て純米酒に戻した蔵元です。
戦前は、どこの蔵元でも、造るお酒はみな純米酒でした。
しかし、戦争中に、醸造アルコールを添加したお酒(アル添酒)や、米の変わりに糖類を使用した三倍増醸酒(三増酒)などが発明されました。
そして戦後しばらくの間も、それらが日本のお酒の主流となっていました。
福光屋さんも、戦後はアル添酒や三増酒を造っていたようです。
しかし、今の社長の先代が、「何かおかしい」と思い、「アルコール添加量を減らすこと」を繰り返し口にしていたとのこと。
その想いをうけて、今の社長が全量純米酒にしたそうです(※1)。
しかし、造るお酒の全量を純米酒に切り替えることは、決してたやすいことではありません。
「醸造用アルコールを添加することで、発酵タンクの中のアルコール発酵は止まる。純米酒は醸造用アルコールを加えないので、発酵タンク内でアルコール発酵が続く。温度変化や発酵の具合をきちんとコントロールしないと、できあがった酒は味のバランスを失い、きつくて、くどい、後味の悪い酒になる。」(※2)そうです。
すなわち、単にアルコール添加を止めただけでは、おいしい純米酒を造ることはできないということです。
加賀鳶 辛口 極寒純米
原材料名/米・米麹
国産米100%使用
精米歩合/65%
アルコール分/16度
飲み方 冷・燗◎
180ml詰
(以上、ラベルとフタとから転記)
まず最初に、冷や(常温)でいただきます。
うまみはけっこう濃いようです。
麹と酵母とによって醸し出されたうまみだと思います。
甘みはほんのり感じる程度です。自然な甘さです。
酸味はやわらかいが、お酒の味を締めています。
ここで、ちょっと燗つけてみたいと思います。
おおっ、これは!!
燗付けたら、酸味とうまみとが際立ってきました。
酸味はちょっと酸っぱいような感じですが、うまみを引き立てるような感じです。
うまみはさらに濃く、そして深くなって、よりいっそう酒臭く(←褒め言葉です)なってきました。
この深みは、酸味との調和によって引き出されているような気がします。
このお酒は、断然燗酒のほうがおいしいと思います。
冷や(常温)と燗酒とでは、うまみの深さがちがいます。
濃醇やや辛口の、おいしいお酒でした。
加賀鳶 純米吟醸
原材料名/米・米麹
全量契約栽培米・特別栽培米使用
原料米/山田錦 六割(兵庫県多可町中区産)・金紋錦(長野県下高井郡木島平産)
精米歩合/60%
(混和率/50%5割・60%5割)
アルコール分/16度
製造法/純米吟醸
飲み方/冷やす◎ 常温○ お燗×
180ml詰
(以上、ラベルより転記)
ラベルで推奨されているとおり、冷蔵庫で冷やしていただきます。
一口含むと、フルーティーな吟醸香が口いっぱいに広がります。
空気とともに口に含んで、鼻から空気を抜くと、吟醸香を堪能することができます。
うまみは、お米本来のうまみでしょうか。
味をつけていない団子をかじったようなうまみです。
酒臭い(←あくまでも褒め言葉です)うまみとはちがって、上品なうまみです。
やさしい甘みも感じます。
この甘みが、吟醸香のフルーティーさを際立たせているような気がします。
酸味はほとんど感じません。
吟醸香と上品なうまみとをはっきりさせるためには、酸味は不要なのかもしれません。
これも、吟醸造りの技なのでしょうか。
とてもていねいに造っていることを感じ取れる、香り高くて上品なお酒でした。
純米酒も、純米吟醸酒も、風味はまったく異なりましたが、いずれもおいしいお酒でした。
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最後に、ちょっとだけウンチクを。
吟醸酒は、アルコールを添加しなければうまくできないという見解があります。
たしかに、「アルコールを入れないと、搾り粕のほうにより多くの香りが残ってしまう。つまり、純米タイプの吟醸酒は、吟醸香が立ちにくい」と、一般的には言われているようです(※3)。
さらには、「高レベルの“品格”を備えた吟味(ぎんあじ)と吟醸香を出すには、現在の技術ではどうしても醸造アルコールの添加が必要です。アル添ができない純米吟醸は吟味も吟醸香も少なく、酒質(品格)の点で「吟醸」と表示するのは問題がある、と考える蔵がまだ多いのです。」とまで評する文献もあります(※4)。
そして、実際に菊姫さんは「菊姫は純米酒では芳醇で豊かな味を追求し、吟醸酒は上品な吟味(ぎんあじ)を重視しています。この2つは酒質的に相入れない点があるので、菊姫では純米吟醸を造ることは考えていません。 」という立場のようです(※5)。
しかし、その一方で、櫻正宗さんの(大)吟醸酒はアルコール添加のお酒でしたが、吟醸香はまったくしませんでした。
もっとも、櫻正宗さんの大吟醸酒はうまみが豊かでしたし、吟醸酒は雑味が無い澄みきった味でした。
これらのうまみや雑味のなさも、吟味して醸造したことの成果として賞賛されるべきことだと思います。
吟醸酒とは、吟醸香がするお酒という意味ではなく、吟味して醸造したお酒という意味です。
そして、吟味して醸造したことによって得られた成果は、うまみであったり、雑味のなさであったり、あるいは豊かな吟醸香であったりと、お酒ごとに異なると思います。
それ故、吟醸香がしないことだけを指摘して、純米吟醸には吟醸酒としての品格がないと評するのは、いささか問題があるのではないでしょうか。
それに、なによりも、今回いただいた福光屋さんの加賀鳶は純米吟醸であるにもかかわらず、フルーティーな吟醸香が豊かなお酒でした。
このお酒のおかげで、アル添をしなくても、技術さえあれば吟醸香を出すことができるということがわかりました。
(※1)酒蔵環境研究会編『挑戦する酒蔵-本物の日本酒を求めて』p.40(2007.11 農文協)
(※2)同p.35・p.40
(※3)小泉武夫監修『日本酒百味百題』p.113(2000.4 柴田書店)
(※4)蝶谷初男『うまい日本酒に会いたい!そのために知っておきたい100問100答』p.145(2004.12 ポプラ社)
(※5)菊姫Website
この記事へのコメント
あとりえSAKANA
いつもと違う・・・と感じ、
じーーーーっと記事を眺めて
いました。
レイアウトが違う。
いつもはタイトルの下にすぐ
お酒の写真があるのに、
今回は文章が先だし、
カップ酒に蓋がない!
心境の変化ですか??
それにしても、読めば読むほど
日本酒の世界も広く深いのですね。
skekhtehuacso
レイアウトの違いにお気づきなさるとは、さすがデザイナーですね。
しかし、残念ながらとくに心境の変化があったわけではありません。
今回の記事は、最初に福光屋さんの紹介をして、その後でいただいたお酒を順に紹介し、最後に吟醸酒のことを書いたほうが、文章の流れとしてはよいのではないかと思って書いていました。
なお、カップ酒の写真にフタがない件ですが、これはもう、単なるうっかりです。
はやくいただきたくて、フタを開けて口をつけようとしたときに、写真を撮るのを忘れていたことに気づいたので、あわてて写真を撮った次第です。
日本のお酒の世界は、奥が深すぎておぼれそうです。
カップ酒を灯台とし、先輩たちが書いた文献を羅針盤として、少しずつその世界を開拓していこうと思っています。
どうかこれからも、拙ブログをごひいきに願います。