【お酒】361.黄桜 京のとくり 純米吟醸 180ml

957.JPG958.JPG
黄桜株式会社M
京都市伏見区塩屋町223

アルコール分/14度
原材料名/米・米麹
※国産米100%使用
福井県産コシヒカリ100%
精米歩合/60%
180ml詰
日本酒度+1
酸度1.4
(以上、ラベルより転記)


このお酒のラベルには、福井県産のコシヒカリを100%使用している旨が表示されています。
959.JPG

コシヒカリって、食用米ですよね。
飯米だけで、おいしいお酒を造ることはできるのでしょうか?。
ってことを、かつてひとめぼれ100%で造られた一ノ蔵をいただいた際に書いたことがありました。

しかし、その後、やや古いものですが、とても興味深い文献に出会いました。
私のようなただの酒好きには、この文献の内容の当否を判断するだけの知識がありません。
そこで、ここでは結論に相当すると思われる部分だけを紹介いたします。

好適米の具備すべき条件も、精米歩合を低くすれば容易に達成出来るものばかりである。好適米の価値は、精米操作に制約のあった時代であればこそ大きかったのであろうが、制約の解けた今となっては相対的に低下するのが当然である。
好適米という観念の固まりかけた時代には、精米法としては杵搗きによる方法しかなかったということをよく記憶に留めておかねばならない。
好適米は長い間好適と考えられ尊重されてきたため、酒造従業員の心にある種の固定観念を植付けたように思われる。その結果、好適米を与えられると大いに奮起して酒造に励む。良い酒が出来るのは当然である。そして好適米の声価をますます高める結果となろう。
逆説的に言えば、好適米が好適であるのは皆が好適であると思うからである。」(以上、※1)


このお酒は純米吟醸酒ですが、飲み方として燗酒を推奨しています。
960.JPG

燗酒で飲むことを推奨する(純米)吟醸酒に出会ったのははじめてです。

私は「生酒や吟醸酒は冷や(←文脈からして冷やすという意味だと思う:ブログ筆者追記)で飲むのが一番。香りが生きるし、酸味を感じて、味がさっぱりする。」(※2)という記述を信用しておりました。
それに、かつて私は、山田錦100%の純米吟醸酒を燗にして、ひどい目にあったことがありました。

しかし、文献の中には、吟醸酒を燗にすることに肯定的なものもあるようです。
冷やでは閉じこもっていた味わいが常温で姿を現す。さらに、燗にすると尖った味が消えて、まろやかな旨みだけが残る。生酒でも吟醸酒でも燗をするといい。
ただし、香りの高い吟醸酒は駄目だ。熟成に向いていないし、燗をしても崩れる。香りが少なく味のしっかりした吟醸酒、それも純米吟醸酒が熟成に向いている。」(以上、※3)

また、別の文献では、燗にするかどうかの基準をもっと明確に示しています。
フルーツ系のフレッシュな香りを楽しむタイプの酒は、温めるとアルコールが立ってしまい、味わいを悪くするものが多いから、吟醸酒や生酒などは、冷やで飲むのが無難ということだ。
旨み成分の少ない淡麗タイプの酒は、燗をすると水っぽくなってしまい、アルコールが舌を刺激するような傾向が強いという。
山廃造りなどの生酛系酒母で造る酒は、もともと燗をして飲んでいた酒なので、最も燗に向く酒といわれる。ただ、現在では山廃吟醸など、生酛系の酒でも香りを重視した造り方をしている場合が多い。そういう酒は温度が高いと香りのボリューム感が強調されすぎることがあるので、通常の燗よりも低めにしたほうがよいという。」(以上、※4)

これらのことを踏まえると、どうやらこういうことではないでしょうか。
〇濃厚なうまみや深い酸味が特徴の、味で勝負してくる吟醸酒は、燗にしてもOK
×フルーティな香りや、フレッシュさを特徴とする淡麗な吟醸酒は、燗には向かない。

一方、このお酒のラベルには、「しっかりした旨さのある、飲み飽きしないお酒」と書かれています。
961.JPG
これは、このお酒は香りではなくて味で勝負するという意味でしょう。
だったら、燗でいただいてみようじゃありませんか。


前置きが長くなってしまいました。
お酒の味は理屈で決まるものではなくて、実際にそれをいただいてみるまではわかりません。
純米吟醸酒ですが、蔵元さんのご指定どおり、今日もぬる燗でいただきます。


フルーティーな香りではありませんが、お酒の香りが少しします。

うまみはやや淡めですが、はっきりしています。
醸し出された酒臭さ(←ほめ言葉です)を感じるうまみです。
それとともに、吟醸酒によくある苦味をかなりはっきりと感じます。
これって、もしかして燗にしたせいでしょうか。

酸味はけっこう強めです。
すっぱさがはっきりしています。
それに、少しピリッとするものの、深みを感じる酸味です。

甘みはひかえめで、ほとんど感じません。


強めで深みのある酸味に、酒臭くて(←あくまでもほめ言葉です)苦みを伴ううまみの、やや淡麗で辛口のおいしいお酒でした。
燗にすることで、酒臭さと酸味とが際立って、飲み応えが出てきたと思います。
そのぶん、飲みやすさは後退しています。
私は酒臭いお酒が好きなので、こういう味もありだと思いますが、吟醸を名乗るのであればもう少し酸味と苦みとが弱くてもよいのではないかと感じました。
しかし、それでも、今までいただいてきた吟醸酒の味とは、ちょっとちがうように思いました。


(※1)野白喜久雄『酒造好適米 その過去、現在、将来』p.15-16(日本醸造協会誌第59巻第7号 1964)
(※2)秋山裕一『日本酒』p.203(1994.4 岩波新書)
(※3)古川修『世界一旨い日本酒 熟成と燗で飲る本物の酒』p.13(2005.6 光文社新書)
(※4)小泉武夫監修『日本酒百味百題』p.206-207(2000.4 柴田書店)

この記事へのコメント

  • hanamura

    栃木県大田原市の渡部酒造さんには、「旭興」純米磨き八割八分があります。先週の栃木県酒造組合「酒々楽」の当番でした。聞くと、なんと、九割九分も、あるそうですがぁ・・・それは飲んでいません。高価な吟醸酒が必ず美味しいわけではないし、精米歩合ばかり競ってもねぇ~って、思います。
    参考文献、日本醸造協会誌第59巻第7号・・・ネットには無いみたいです。日本醸造協会に行ってみようかなぁ~?
    2014年10月16日 12:53
  • 美美

    気温もかなり下がってきたので燗酒も良いですね(^^
    2014年10月16日 20:37
  • skekhtehuacso

    hanamuraさん、日本醸造協会誌上の論文は、新しいものでなければそのほとんどをネット上で閲覧することができます。
    国会図書館のWebsiteで雑誌記事の検索すると、日本醸造協会誌上の記事にはデジタルデータへのリンクが表示されるので、それをクリックするとデジタルデータのページへ行くことができます。
    私もそうして記事を入手しています。
    2014年10月16日 23:08
  • skekhtehuacso

    美美さん、ぜひ燗酒を楽しみましょう。
    冬はやっぱり温かいお酒が一番ですね。
    と言っても、私は年中飲んでいますが。
    2014年10月16日 23:11
  • こっこ

    昔 友達とふたりで 大みそかに
    なんやらかんやら 台所で 話しながら
    チンしちゃぁ 一升瓶を元日にかけ
    開けてしまい、子供たちほったらかしで、
    友達のご主人に しかられたのを 思い出しました。
    京都は伏見の酒。銘柄は・・・わすれちゃいました
    とっても飲みやすくて、ついつい、くいくいっと・・・

    以来、大酒のみ!と、呼ばれます(T_T)
    まったく、酔わなかった二人でした・・・
    2014年10月17日 14:40
  • skekhtehuacso

    こっこさん、大酒のみはうらやましいです。
    私なんか、4合飲むと体の制御が効かなくなってしまいます。
    かつて会津若松で4合飲んで、ホテルへ帰る途中で転んで、両手のひらをすりむいてしまったことがありました。
    転んだ瞬間に、頭では転ぶからやばいってわかっていたのですが、頭で考えているとおりに体が動かないんです。
    2014年10月18日 20:22

この記事へのトラックバック